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長崎家庭裁判所 昭和62年(少)1516号 決定 1988年2月17日

少年 K・Y(昭和48.6.12生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

少年に対し強制的措置をとることを許可しない。

強制的措置許可申請事件を長崎県中央児童相談所長に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

1  A、B、Cと共謀のうえ、昭和62年10月27日午後11時ころ、長崎県長崎市○○町×番××号D方前路上において、E所有の原動機付自転車1台(時価1万5000円相当)及びヘルメツト1個(時価4000円相当)を窃取した

2  F、G、Hと共謀のうえ、同年11月8日午前9時ころ、同市○○×丁目××番×号I方玄関通路階段において、同人所有の自転車1台(時価2万円相当)を窃取した

3  F、G、Hと共謀のうえ、同月同日午前11時ころ、同市○○町××番地J方前路上において、K所有の自転車1台(時価1万円相当)を窃取した

4  F、G、Hと共謀のうえ、同月9日午前2時30分ころ、同市○○町××番地×L方車庫内から、同人所有の普通乗用自動車1台(時価30万円相当)を窃取した

5  Fと共謀のうえ、同月15日午後3時ころ、同市○○町×番××号××小学校内から、同校校長M管理にかかる現金4090円位及び電動給油ポンプ1個(時価780円相当)を窃取した

6  Aと共謀のうえ、同月22日午前1時ころ、同小学校内から同校校長M管理にかかる現金1万2600円位及びジヤージズボン1着(時価5000円相当)を窃取した

7  Aと共謀のうえ、同月同日午後10時ころ、同県西彼杵郡○○町○○××番地××N方横路上において、同人所有の原動機付自転車1台(時価5000円相当)を窃取した

8  Aと共謀のうえ、同月同日午後10時20分ころ、同町○○××番地付近路上脇空地において、O所有の原動機付自転車1台(時価10万円相当)を窃取した

9  P、Qと共謀のうえ、同63年1月18日午後3時30分ころ、長崎市○○町××番地×R方において、同人所有の現金8000円位及び毛布等26点(時価合計3万4300円相当)を窃取した

10  昭和63年1月6日試験観察決定を受け同日それまで在園していた教護院である開成学園に戻つたものであるが、同月16日同園在園中の2名の中学生と共に無断外出し、その後以前交際していた中学生S子とも行動を共にし、同月24日帰宅保護されるまでの間所在不明となり、その間同月22日には自己の頸動脈を切り自殺をはかるなど、保護者の正当な監督に服さず、正当な理由なく家庭に寄り附かず、自己の徳性を害する性癖があり、その性格、環境、行動傾向等に照らして将来窃盗などの犯罪行為を犯すおそれが強い

ものである。

(法令の適用)

非行事実1ないし9につき刑法235条、60

条非行事実10につき少年法3条1項3号イロニ

(処遇の理由)

1  少年は、昭和62年4月ころから、怠学、喫煙、シンナー吸入、不良交遊等の問題行動が目立ち始めたため、7月7日から児童相談所による指導が開始された。しかし、9月下旬ころから同じ中学校の上級生であるS子と交際が始まり、同人と共に家出を繰り返すようになつたために、10月26日に一時保護の措置がとられた。しかし、一時保護中も3回にわたり無断外出し、その間には窃盗非行を犯し(本件非行1)たことなどから、11月6日には教護院である開成学園への入所措置がとられた。同学園入所後も11月8日、11日、21日とたてつづけに3回無断外出し、第1回目の無断外出中には3件(本件非行2ないし4)の、第2回目の無断外出中には1件(本件非行5)の、第3回目の無断外出中には3件(本件非行6ないし8)の窃盗非行を犯し、12月11日保護され、同日強制的措置許可申請事件が送致され、観護措置がとられた。昭和63年1月6日に窃盗保護事件及び強制的措置許可申請事件について試験観察決定が言い渡され、同日開成学園に帰園するも、同月16日在園生に誘われ無断外出し、同月18日には窃盗非行(本件非行9)を犯し、同月22日には頸動脈を切つて自殺をはかり、同月24日に帰宅保護され病院に入院し、同月27日ぐ犯立件(本件非行10)され、同日同事件につき観護措置がとられた。

2  同人の非行性についてみるに、上記認定のとおり、9件の窃盗事件を犯し、中には自動車を盗み、自ら運転するという悪質なものもあるが、一方窃盗事件は今回はじめてであり、それらはすべて共犯者と共に児童相談所あるいは教護院からの無断外出中に起こした事件であつて状況に規定された面もあること、試験観察決定後の1件の窃盗事件においても追従的な役割をはたしているにすぎないこと等の事情もあり、窃盗非行が常習化しているとまでは認め難い。同人の問題性は、むしろ顕著な性格の未熟さとそれに起因する生活の崩れの大きさという面にある。同人は愛情承認欲求が強く、非常に情緒不安定であつて、困難な場面では逃避的になる傾向が認められる。この点は自殺企図、家出、頻繁な無断外出、初回鑑別所入所時の逃走企図を伺わせる行動等に顕現している。それゆえ問題行動に対する各所からの指導も極めて浸透困難な状況にある。

3  家庭環境についてみると、少年の父母が昭和59年2月に離婚したため父に引き取られて養育されるも、父が刑事事件を惹起し勾留されたことから同61年11月母に引き取られた。しかし母は、保護的関心はあるものの、離婚の経緯、仕事の関係などから少年の指導に対しては消極的な面がうかがえ、また現在少年の父母間において少年の指導につき意思の疎通をはかりうる状況にないなど、その保護能力に多くは期待できない。

4  そこで少年の処遇について考えるに、上記認定のとおり、基本的な生活の崩れが大きく、問題行動についてはほとんど改善されていないこと、窃盗非行が常習化しているとはいえないにしても少年の逃避的な行動傾向からみて、家出、無断外出それに伴う窃盗非行の可能性は強いこと、家庭の保護能力に期待はできないことなどから、少年に対しては、施設に収容したうえで生活指導、社会規範の涵養などの点について教育がなされることが相当であると思料する。そして、性格の未熟さが顕著で処遇の難しさがあること、上記認定の少年の一連の行動からして、開放施設である教護院での処遇の限界を越えていると認められることなどからして、その教育は少年院においてなされるべきものと思料する。ただ、現時点においても自殺を口にし、鑑別所において「行為障害、抑うつ状態」との診断をうけるなど情緒不安定な状態にあり、また性格に著しい偏りがあると認められることなどから短期処遇勧告は相当でないと思料するけれど、現在までその逃避的な行動傾向ゆえ実質的な処遇がなされていないこと、犯罪非行性自体には高度のものがあるとは認められないことから、一定の強力な枠組みのもとにおける指導により落ち着きを取り戻す可能性も考えられ、処遇経過が順調に推移する場合においては、早期仮退院が望ましいと思料するので、この旨別途勧告することとする。

5  なお、本件強制的措置許可申請事件の送致事由の要旨は、おおむね「家出等の問題行動があるため開成学園への入所措置がとられたが、児童相談所の一時保護中、開成学園入所後も無断外出を繰り返し、その間窃盗等の犯罪行為を行つていることから、同学園での指導は困難であり、強制的措置が可能な国立教護院における指導が適当である」というにあるところ、少年の場合、国立教護院においてもなお無断外出の可能性が強く懸念されること及び上記認定にかかる諸事情により、少年院における指導が適当であると判断され、そうすると強制的措置の必要性はないことに帰するので、これを許可しないこととし、同申請事件を児童相談所長に送致することとする。

6  よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年法18条2項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 古久保正人)

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